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最近の作画風景

作画風景5(活写の術))

惡忍−加藤段蔵無頼伝 活写の術 下絵
これは『惡忍−加藤段蔵無頼伝』コミックス2の巻で段蔵が寺の屋根に登り『活写の術』というのを行っているシーンです。
ご覧のように背景にはすでにペンが入ってしまっていがすが、相変わらずなかなかこまめに途中経過を残せず・・・なので、この絵では構図、パース(透視図法)の話などをしてみましょう。

段蔵は高いお寺の屋根の一番端、鬼瓦の上に胡坐(あぐら)をかいています。前のページにはそのロングショットがあり、ここはその近影といった感じです。この絵では段蔵の顔に読者の目線が自然と向くようにと段蔵の目と水平線の高さを意識的に同じにしています。そこから読者の目線が次のコマの段蔵のアップに自然に繋がるようにと・・・

水平線というのは文字通り、大海原を眺めたならば目の前に広がる水平線、果てしない砂漠を見たならば目の前に広がる地平線。この絵では海の水平線も砂漠の地平線もありませんが、それがどこに存在するかと言うと、
青鉛筆で描かれた山の麓(ふもと)、ぺんの入っている平地の一番向こうの林の上あたりとなります。もしもそこに山がなければそこにはに大海原の水平線、あるいは大地に広がる地平線が見える。という事になります。

また、水平線というのはそれを捕らえる画家の目の高さ(カメラ撮影であるならばそのカメラが設置されている高さ)を表現します。つまりこの絵は屋根の上に座る段蔵の目の向こうに水平線が見える位置(高さ)から捕らえた絵、と言う事です。パースの掛かり具合から被写体からのおおよその距離も判ります。この絵ですと段蔵の左手前(段蔵から見て)3〜4メートルの所から捕らえた絵という事になるでしょうか。もちろん段蔵は屋根の一番端にいるので、何もない空中から捕らえている事になります。カメラ撮影でしたら大型クレーンでカメラを吊るしての撮影でしょうか。

惡忍−加藤段蔵無頼伝 活写の術 ペン画 技法で言うとこの絵は2点透視ということになり
消失点を2つ取ってあります。(赤色でそのガイドラインを示せればよいのですが今はその時間がないのですみません)

一点は段蔵が座っている丸太のような瓦(名前を忘れました)のラインを右斜め上方向に延長して行った線と水平線を右に延長した線の交点、つまり絵からははみ出したずっと右のほうになります。
もう一点は逆に左、段蔵が座っている丸太のような瓦の下の横にせり出た部分(縦に球の飾りが並んでいるやつ)の上側のラインをそのまま左斜め上に延長していった線と水平線を左に延長した線との交点、つまりこれも絵からははみ出た左の方になります。

ようするに水平に置かれたものの消失点は水平線上になるわけです。もちろん水平に置かれていない物の消失点は水平線上にはなりません。
しかし普段目にする物の多くは水平に置かれていますので水平線というのは色々な線の消失点が集まりやすい所で、人の目も自然とそこに向いたりする訳です。言い方を代えれば上にも書きましたが水平線はその『傍観者の目の高さを表現するもの』ですので、大地に立ち、まっすぐ前を見れば必ずそこには水平線がある(存在する)訳です。当然人の目線が行きやすい所であるかもしれません。大地と書きましたが立つ場所はビルの上でも山のてっぺんでも同じです、まっすぐ前を見れば(水平方向に目線を向ければ)水平線があると言う事です。

また水平線は往々にして一本の線(大海原の水平線しかり、砂漠の地平線しかり)かそれに類する表現となる(この絵ですと平地の終わり、山の麓のあたり)ので絵を見る人の目線がなぞりやすかったりする訳です。

左下のコマ、これは高い屋根の上から下を見下ろした絵ですが、見下ろしているので(まっすぐ前を見ていないので、目線が水平でないので)水平線は画面の中には入らずはみ出したずっと上の方になります。

舞い戻りますが1コマ目の絵はかなり近くから段蔵を捕らえているので消失点は左右の割りと近い所に存在し、画面の下の方ではかなり「見下ろした感」が出ています(勿論そうなるよう意図的にやっています)が、もっと遠くから望遠レンズを使って段蔵を捕らえたような場合には消失点は左右のもっとずっと遠い所となり画面の上下でもそれほどパースがきつくなることはありません。望遠鏡などで遠くから捕らえた絵の時はそのような方法を使うのがよいと思います。

この絵(1コマ目)の中でも水平線に近い部分、平地の一番向こうの林のすぐ下あたりの家などはパースがそれほどきつくないことが判るとおもいますが(手前の段蔵の下の鬼瓦と見比べてください)遠くから物を捕らえた(見た)場合はそのように見えると言う事です。
惡忍−加藤段蔵無頼伝 活写の術 スクリーントーン 透視図法を全く知らない人にはちんぷんかんぷんの話になってしまったかも知れませんが、多少齧(かじ)ったけど今ひとつ、と言う人には手助けになったかも知れません。やっぱり全然判らない、と言う人はもう一度勉強してください。


このシーンは夜ですのでご覧のような仕上がりとなりました。内容は『惡忍−加藤段蔵無頼伝』コミックス2の巻をご覧ください。ではまた・・・

これまでの作画風景
作画風景1(景政旅籠に現る)
作画風景2(弁天姉妹乱入)
作画風景3(段蔵、一揆を語る)
作画風景4(お六、尻尾を掴む)


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